ドグラマグラの意味
夢野久作の代表作に『ドグラマグラ』という長編幻想小説があります。
この『ドグラマグラ』は、記憶を失い、精神病棟で目が覚めた主人公の独白形式で描かれた小説で、構想と執筆に10年の歳月を費やし、1935年に刊行されます。
夢野久作が亡くなるのが1936年なので、『ドグラマグラ』は、亡くなる前年に刊行されたことになります。
このドグラマグラという言葉の意味や由来については、作中で、切支丹伴天連の使う幻魔術のことを指す長崎の方言で、精確な語源は定かではないものの「堂廻目眩」「戸惑面喰」という字を当て「ドグラマグラ」と読んでもいい、と説明されるシーンが描かれています。
元来この九州地方には『ゲレン』とか『ハライソ』とか『バンコ』『ドンタク』『テレンパレン』なぞいうような旧欧羅巴系統の訛言葉が、方言として多数に残っているようですから、或は、そんなものの一種ではあるまいかと考え付きましたので、そのような方言を専門に研究している篤志家の手で、色々と取調べてもらいますと、やっとわかりました。
……このドグラ・マグラという言葉は、維新前後までは切支丹伴天連の使う幻魔術のことをいった長崎地方の方言だそうで、只今では単に手品とか、トリックとかいう意味にしか使われていない一種の廃語同様の言葉だそうです。
語源、系統なんぞは、まだ判明致しませぬが、強いて訳しますれば今の幻魔術もしくは『堂廻目眩』『戸惑面喰』という字を当てて、おなじように『ドグラ・マグラ』と読ませてもよろしいというお話ですが、いずれにしましてもそのような意味の全部を引っくるめたような言葉には相違御座いません。
出典 : 夢野久作『ドグラ・マグラ』
キリシタンバテレンとは、キリスト教が日本に伝わった頃の宣教師の敬称を意味します。
つまり、ドグラマグラとは、かつてキリスト教宣教師の使った幻魔術のことを意味し、その後、単に手品やトリックを意味するようになった長崎地方の方言で、もし訳すなら、幻魔術か、「堂廻目眩」「戸惑面喰」という字を当ててもよく、概ねそのような意味合いの言葉をひっくるめた言葉だと言います。
実際に、ドグラマグラという言葉は実在したのでしょうか。
ドグラマグラの由来を探った松本健一の『どぐら奇譚』によれば、ある佐賀の女性曰く、子供の頃に使われていたという証言もあるようです。
佐賀の女性は、子供のころドグラ・マグラが実際に使われていることを知っていたという。松本健一「どぐら綺譚 魔人伝説」200頁2行目
夢野久作が、福岡県の出身なので、もしかしたらどこかでドグラマグラという言葉を聞いたこともあったのかもしれません。